声明,提言,主張

内閣府による「日本学術会議の在り方についての方針」について再考を求める声明

~岸田内閣総理大臣は日本学術会議の独立性と自律性を保障し、前政権によって任命拒否された日本学術会議推薦の6候補を直ちに任命することを強く要請します~

日本臨床心理学会第58回定期総会

私たち日本臨床心理学会は、2022年3月13日の本学会第57回定期総会において、以下の抗議声明を決議し、内閣府に送付しました。

「日本学術会議の協力団体の一員として、岸田文雄内閣総理大臣の『任命権者である(当時の)菅義偉首相が最終判断したことから、一連の手続きは終了したものと考えている』という無責任な発言に強く抗議し、直ちに日本学術会議法第7条の『会員は、第17条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する』という法文に則って、任命拒否された日本学術会議会員、6候補を任命することを強く求めます。」

極めて多数の学術団体からの抗議と説明要求にも拘らず、政府、内閣府は上記任命拒否の根拠と理由を明らかにしないまま、政権は2021年10月4日岸田文雄総理に引き継がれました。

2022年1月13日に学術会議の梶田隆章会長が岸田文雄総理と面談し、日本学術会議会員6候補を速やかに任命することを強く求めたところ、その席で総理は「前政権の最終判断から、一連の手続きは終了したもの」との考えを示し、この重大な問題を無視し続けています。

その後、2022年12月6日、内閣府は「日本学術会議の在り方についての指針」を公表しましたが、これに対して日本学術会議は「再考を求めます」という声明を、同会議第186回総会で採択しました。

私たちは、日本学術会議のこの声明を支持し、6項目の懸念事項については、全く同じように考えるものです。特に会員選考において、内閣府の提案による外部からの推薦や、第三者委員会の設置そのものが、容易に政治的介入の足場になり、学術会議の自律的かつ独立した会員選考体制を脅かすものになることについては、強く懸念せざるを得ません。

第二次世界大戦終結前、様々な障がいや生きにくさを抱える人たちは、兵隊や銃後の者として、国から「役に立たない」と決めつけられ、差別され、施設での餓死者が出るなど、生きることさえ奪われてきました。当時学術界は政治に完全に従属させられ、自らも戦争遂行に加担し、こうした差別を、むしろ正当化する役割を担っていました。この歴史への真摯な反省に立って制定されたのが、日本学術会議法であり、日本学術会議です。そして私たち日本臨床心理学会は、特に1969年以降の改革運動の中で、障がい児・者差別を受けてきた人々の「何のための学問か?!」という厳しい問いかけを真摯に受け止め、障がいのある人びとの人権をないがしろにしない学術・学問のあり方を、障がい児・者に学びつつ、障がい児・者とともに模索し、活動し続けてきた団体です。

私たちは、人を「役に立つ」「役に立たない」という判断基準によって価値づけ裁定するのではなく、それぞれの存在そのものを、そしてその基本的人権を大事にしていくことを大前提にして、対人支援や援助に関する実践と研究に取り組んできた団体です。

また、さまざまな基礎的・基本的な学術研究においても、「すぐに役に立つか、否か」という現時点での直接的な生産性と効率性で判断することの危険性は、あらゆる分野で言われていますし、これまで歴史的にも証明されていることです。

このような当学会の基本的な考え方と理念、そして活動から、私たちは、現政権の日本学術会議会員6候補の任命拒否の継続は看過できず、また学術への政治的介入は到底受け入れることはできません。

私たちは、岸田文雄内閣総理大臣に対して、今回の内閣府による「日本学術会議の在り方についての方針」について、上記日本学術会議の声明を真摯に受け止めて再考することを求めると同時に、任命拒否された日本学術会議会員6候補を直ちに任命することを強く要請します。

今国会での精神保健福祉法改正案の成立は阻止!

日本臨床心理学会運営委員会

2017年5月20日、参議院本会議において精神保健福祉法改正法案が可決されましたが、6月16日に衆議院厚生労働委員会が開かれ、 自公維新が賛成、民進党は出席拒否、共産党は反対(社民党は委員会に委員がいない)によって衆議院本会議で継続審議になりました。 第193回通常国会会期中の改正法案成立は阻止されましたが、秋の臨時国会で審議が始まることになり廃案にはできませんでした。

参議院の厚生労働委員会で4月11日に審議が始まった精神保健福祉法改正法案は異例ともいえる約36時間に及ぶ審議が行われましが、残念ながら改正法案は採択されてしまいました。

審議の中で、4月13日に厚生労働省が、改正精神保健福祉法案の説明資料にある、2月28日に厚生労働省が発表した改正の概要部分の 「相模原市の障害者支援施設の事件では、犯罪予告通り実施され、多くの被害者を出す惨事となった。 二度と同様の事件が発生しないよう、以下のポイントに留意して法整備を行う。」と、精神障害者支援地域協議会の参加者の「必要に応じ て、障害福祉サービス事業者、本人・家族等」となっていた部分の「必要に応じて」を削除することを与野党に申し入れ、削除した説明資料を提出しました。

審議中に一度提出した説明資料の改正趣旨の一部を削除するのは異例であり、提出した法案自体の不備を認めることになるわけですが、 塩崎恭久厚労大臣は参院厚生労働委員会で「このような形になったことをおわびする。法案の内容は変更しない」と強硬姿勢を崩すことはありませんでした。

審議過程では、厚生労働省は、警察が関与するのは個別事例であり、患者が自殺するおそれがあって医療機関から関与を求められた場合など、 例外的なケースに限られるとの答弁がありましたが、現実的に自殺予防は不可能であり、詭弁でしかないと言えます。また、同計画による支援期間が、 6カ月以内を目安とすることも明らかになりましたが、最終的には数の論理で与党に押し切られてしました。

一方衆議院では、5月11日に自民党自見はなこ議員が「精神障害者がこの法で監視されていると思うのは精神障害者の妄想だ」と いった驚くべき内容の発言をすることもありましたが、政府が森友問題以後の加計学園疑惑を回避し共謀罪成立を急いだことがあり、 精神保健福祉法改正案まで審議がされるまでには至りませんでした。そして、6月18日に第193回通常国会の会期が終了したために、 精神保健福祉法改正案は秋の臨時国会に持ち越されることになりました。本学会も関係機関と協力して、秋の臨時国会での廃案に向け、 精神保健福祉法改正の問題点を、多くの人に理解してもらうことが必要だと考えます。

9月9日『公認心理師法』成立

9月8日に参議院文科委員会を通過した『公認心理師法案』は9月9日10時過ぎ参議院本会議にて投票総数236票、賛成236票、反対0票、 全会一致にて可決、成立しました。9月16日付けの官報に「法律第六十八号 公認心理師法」が掲載されています。以下主要な部分を抜粋し掲載します。

  • (目的)第一条 この法律は、公認心理師の資格を定めて、その業務の適正を図り、もって国民の心の健康の保持増進に寄与することを目的とする。
  • (定義)第二条 この法律において「公認心理師」とは、第二十八条の登録を受け、公認心理師の名称を用いて、保健医療、福祉、教育その他の分野において、 心理学に関する専門的知識及び技術をもって、次に掲げる行為を行うことを業とする者をいう。
    • 一心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること。
    • 二心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
    • 三心理に関する支援を要する者の関係者に対し、その相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
    • 四心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供を行うこと。
  • (資格)第四条 公認心理師試験(以下「試験」という。)に合格した者は、公認心理師となる資格を有する。
  • (受験資格) 第七条試験は、次の各号のいずれかに該当する者でなければ、受けることができない。
    • 一学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)に基づく大学(短期大学を除く。以下同じ。)において 心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めて 卒業し、かつ、同法に基づく大学院において心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で 定めるものを修めてその課程を修了した者その他その者に準ずるものとして文部科学省令・厚生労働省令で定める者
    • 二学校教育法に基づく大学において心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で 定めるものを修めて卒業した者その他その者に準ずるものとして文部科学省令・厚生労働省令で定める者であって、 文部科学省令・厚生労働省令で定める施設において文部科学省令・厚生労働省令で定める期間以上第二条第一号から 第三号までに掲げる行為の業務に従事したもの
    • 三文部科学大臣及び厚生労働大臣が前二号に掲げる者と同等以上の知識及び技能を有すると認定した者

附則(受験資格の特例)

  • 第二条 次の各号のいずれかに該当する者は、第七条の規定にかかわらず、試験を受けることができる。
    • 一この法律の施行の日(以下この項及び附則第六条において「施行日」という。)前に学校教育法に基づく大学院の 課程を修了した者であって、当該大学院において心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めたもの
    • 二施行日前に学校教育法に基づく大学院に入学した者であって、施行日以後に心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として 文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めて当該大学院の課程を修了したもの
    • 三施行日前に学校教育法に基づく大学に入学し、かつ、心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として文部科学省令・厚生労働省令で 定めるものを修めて卒業した者その他その者に準ずるものとして文部科学省令・厚生労働省令で定める者であって、施行日以後に同法に基づく 大学院において第七条第一号の文部科学省令・厚生労働省令で定める科目を修めてその課程を修了したもの
    • 四施行日前に学校教育法に基づく大学に入学し、かつ、心理学その他の公認心理師となるために必要な科目として 文部科学省令・厚生労働省令で定めるものを修めて卒業した者その他その者に準ずるものとして文部科学省令・厚生労働省令で定める者で あって、第七条第二号の文部科学省令・厚生労働省令で定める施設において同号の文部科学省令・厚生労働省令で定める期間以上第二条第一号から 第三号までに掲げる行為の業務に従事したもの
  • 2 この法律の施行の際現に第二条第一号から第三号までに掲げる行為を業として行っている者その他その者に準ずるものとして 文部科学省令・厚生労働省令で定める者であって、次の各号のいずれにも該当するに至ったものは、この法律の施行後五年間は、第七条の規定にかかわらず、試験を受けることができる。
    • 一文部科学大臣及び厚生労働大臣が指定した講習会の課程を修了した者
    • 二文部科学省令・厚生労働省令で定める施設において、第二条第一号から第三号までに掲げる行為を五年以上業として行った者
  • 3 前項に規定する者に対する試験は、文部科学省令・厚生労働省令で定めるところにより、その科目の一部を免除することができる。

裁判報告(2015年12月25日提訴~2017年4月7日判決)

全面勝訴のお知らせ

日本臨床心理学会 会長 亀口公一(第22期運営委員長)

はじめに

2017年4月7日、日本臨床心理学会(以下、本学会という。)が提訴した裁判の判決言渡が、大阪地方裁判所(第25民事部)807号法廷でありました。その判決は 画期的な内容であり、原告全面勝訴でした。

しかし、4月21日に被告側が大阪高裁に控訴しましたので、現時点で今回の裁判の経緯について会員のみなさまにご報告します。

判決までの経過

  1. 2015年9月4日、第22期運営委員選出を含む定期総会が京都大学で開かれましたが、議事が混乱し運営委員が選出されないまま終了しました。しかし、 議長団に選出された實川被告らは、総会は流会ではなく続行中であり、實川議長が学会の代表者であると主張しました。さらに、第21期運営委員会(谷奥運営委員長) の反対を押し切って、9月26日に招集権がないにもかかわらず、日本基督教団東淀川教会で継続の定期総会と称して強行開催しました。

    實川議長らは、出席者16人、委任状16人の計32人で審議を行い、實川、中川、金田会員の 3 人を第 22 期運営委員と称し、梅屋、戸田会員を監事と称して選 出し、實川議長は自分が第22期運営委員長であると宣言しました。

    しかも、9月26日の議事録を後日インターネットで公表し、学会事務委託会社に会員名簿の引き渡し要求を行う他、10月8日以降には、實川幹朗運営委員長名で日 本学術会議や日本心理学諸学会連合に代表者変更届を出すなど一方的な行動を起こしました。

  2. 同年10月16日、「戸田游晏こと戸田弘子」が申立人として、第21期運営委員長(谷奥運営委員長)を相手方として「公益社団法人 民間総合調停センター」に 和解あっせんを申し立てました。また、實川議長らは、第21期運営委員の任期は8月10日(第21期運営委員の選出は 2013 年8月10日の芦屋大会の総会でした。) で終了していると主張しました。この和解あっせんと任期切れ解釈はどちらも一方的な主張でしかも矛盾しています。そのため、谷奥運営委員長は「手続きに応じません」 と回答しました。

  3. 同年11月23日、第21期運営委員長(谷奥運営委員長)は会則に則り、東京駅前ビルのハロー貸会議室において臨時総会(出席者71人、委任状48人)を招集 し、同年9月4日定期総会における審議未了の全議案を採決し、選挙によって第22期運営委員会(亀口運営委員長)が正式に発足しました。

  4. 同年12月25日、本学会は、實川議長らとの「話し合い」による解決方法を採ることは困難だと判断し、本学会が原告となり大阪地方裁判所に提訴(甲事件)しました。

  5. 本学会訴状の「請求」の内容は、以下の通りです。

    1. 被告實川幹朗および被告戸田弘子は, いずれも,原告の会員ではないことを確認する。
    2. 被告中川聡および被告金田恆孝は, いずれも,原告の第 22期運営委員ではないことを確認する。
    3. 被告梅屋隆は, 原告の第22期監事ではないことを確認する。
    4. 被告らは,いずれも,原告名義を使用して, 広報誌・紙の発行, インターネットによる広報活動, 講演会・研修会の開催等の活動をしたり、これら活動 に参加してはならない。
    5. 被告らは連帯して、原告に対し金1千万円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで 年5分の割合による金員を支払え。(仮処分)
    6. 訴訟費用は被告らの負担とする。
    7. との判決並びに第5項につき仮執行の宣言を求める。

    上記の「請求1~3」の背景には、「實川議長らが 9 月 26 日に強行開催した定期会員総会開催は無効」であり、同時に「第 21 期運営委員長(谷奥運営委員長)が招 集した 11 月 23 日の臨時総会で議決された内容は有効」であるとする共通認識が、 第 21 期と第 22 期のすべての運営委員にありました。

  6. ところが、2016 年 4 月 12 日に一般社団法人日本臨床心理学会(2015年 12 月 18 日に實川被告らが総会決議なく法人登記)が、本学会役員 11 名を被告 として「名称使用差止め等請求」の訴訟(乙事件)を起こしました。その告訴内容は、本学会に対し「不当に占有する学会財産の引き渡し」を要求するものであり、本学会 が「日本臨床心理学会」の名称を使用してはならないというものでした。
  7. 判決文の概要

    大阪地裁の判決文では、本学会提訴による「損害賠償等請求事件」を甲事件(原告を「原告学会」という)とし、一般社団法人日本臨床心理学会による逆提訴した「名 称使用差止め等請求事件」を乙事件(原告を原告社団法人という)としています。 なお、本裁判の口頭弁論終結日は、2017 年 1 月 13 日でした。

    判決の主文(第 1 項~第11項)のうち、重要な内容(第1項~第7項)は以下の通りです。

    主文第1項 甲事件被告中川及び甲事件被告金田は、いずれも原告学会の第22期運営委員ではないことを確認する。

    主文第2項 甲事件被告梅屋は、原告学会の監事ではないことを確認する。

    主文第3項 甲事件被告らは、いずれも「日本臨床心理学会」の名称(中略)で活動してはならない。

    判決文の「事実及び理由(第3当裁判所の判断9)」には、「『日本臨床心理学会』の名称を自らの名称として使用することができる権利を有するのは原告 学会のみであるから、原告社団法人が、上記名称を自らの名称として使用する権利を有していないことは明らかである。」 と明記されています。

    主文第4項、第5項、第6項では、被告らは、連帯して日本臨床心理学会に220万円及び 2016 年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払えと しています。

    なお、主文第7項では、原告学会の「實川・戸田が原告学会の会員でない」という確認請求(地位不存在確認)については、「法律上の争訟に当たらず、裁判所の司法審 査の対象となるものではない」として却下されました。しかし、これは、裁判所が原告学会の臨時総会の成立を認めたことで、實川・戸田の除名決議が有効であることを 追認するものに他なりません。したがって、今後ともこの 2 名を会員ではないとして学会運営することに何ら問題はありません。

    以上、判決文に示されているように、2015 年 11 月 23 日の原告学会臨時総会が、適法に開催されていることが認められ被告らが主張する「名称仕様の差し止め請求」は棄却されました。

    おわりに

    本学会は、1964年の設立総会で創設されて以来、会則を持つ「権利能力なき社団」として人格的利益と名誉権を持っています。今後も被告らが「一般社団法人日本臨床心理学会」を名乗ることは、明らかに違法であり、本学会の人格権と名誉権の侵害であることを最後に確認しておきたいと思います。

    長期に亘る裁判でしたが、会員のみなさまの御支援で全面勝訴することが出来ました。また、傍聴も含めての御支援、御協力に改めて感謝します。